楽しい時間はあっという間だ。
中洲の街を眺めながら向かったのはこの日もラーメン屋。「一双」という店だ。
ここはいつも行列が絶えない大人気店。この日も5人ほど列を作っていた。
最後尾に並び、凍える体を丸めながら、今か今かとラーメンを待つ。
この時間もまた福岡に来た実感を与えてくれる貴重な時間だ。
ここのとんこつラーメンはとろみのあるタイプ。
好き嫌いが分かれそうなところだが、俺は意外と好きだ。
ぶっちゃけそこまで好きなタイプのラーメンではないのだが、何故か妙に中毒性があり、飲むと毎回食べたくなってしまう。
カウンターに置かれたラーメンを手に取ると、独特の豚骨の匂いがブワッと鼻にくる。
勢いよくすすると、火傷しそうな熱さと濃厚な味が口の中に広がっていく。この感じがやめられないんだよなぁ。
それにしてもどうしてお腹いっぱいでも飲んだ後はラーメンが食べられてしまうのだろうか・・・全く不思議なものである。
さすがに満腹で中洲の街を後にしようとして歩いていると、ふと気になる店を発見してしまう。
「おむすび村」。
なんて唆られる店名なんだ・・・気が付けば店のドアを開けていた。
店内はバーカウンターがあったが、なんと満席。
仕方がないのでおにぎりをテイクアウトすることにした。
実に30種類以上の具の中から選べというのは酷な話。しかし全てを買うわけにはいかない。
そのため特におすすめっぽい塩さば、かしわ、天むすをチョイスした。
包まれたおにぎりを手に、川沿いを1人歩く。
ちょうど良さそうな場所を見つけ、先ほど購入したおにぎりを食べることに。
夜の中洲で1人おにぎりを頬張る。
なんだか笑えてくるシチュエーションだが、今の俺にはなんだか妙に心地いい。
そしておにぎりの温かさとちょうどいい握り加減がやけに体に染み渡る。
暗闇を弾き飛ばしそうなくらい眩しさで溢れている中洲の夜で、静寂に溢れる場所はとても貴重だ。
少し歩けばまた中洲という大きな欲望が体にまとわりついてくることは間違いない。
それでもこの場所に来れてよかった。この冬が終わればまた春が来て夏が来て秋が来る。
季節ごとに違った表情を見せるこの街は、なんとも言えない魅力に溢れている。
次はいつこの街にやって来れるだろうか。
そんなことを思いながら、福岡最後の夜を過ごしたのだった。